「共助の出島」とは何か。TSCがつくる、組織の壁を越えた挑戦の場
こんにちは、地域おこし協力隊の松原です。
今回は、2026年7月10日に東洋大学白山キャンパスで開催された、豊岡の官民共創の取組みをテーマにした、「まちづくりにおける機動性・柔軟性確保の課題と可能性 ~兵庫県豊岡市の『出島』からの学び~」というセミナーに参加してきました。
このセミナーでは、豊岡スマートコミュニティ推進機構(TSC)のこれまでの取り組みや、「共助の出島」という考え方について紹介されました。
当日の話を振り返りながら、セミナーを通して僕自身が改めて感じた「TSCってどんな場所なんだろう?」ということを中心にレポートしていきます。
当日は、TSCの設立やこれまでの活動に関わってきた3人が登壇しました。
豊岡市からは、こども未来部長兼子育て専門官の若森洋崇さん。但馬信用金庫からは、理事長の宮垣健生さん。
そして、TSCの立ち上げ当初から支援してきた一般財団法人トヨタ・モビリティ基金(TMF)から、プログラム・ディレクターの鈴木雅穂さんです。
東洋大学国際PPP研究所シニア・リサーチパートナーの根本祐二先生による問題提起と、同大学客員教授の関幸子先生の進行のもと、豊岡で進められてきた官民共創や、TSC(豊岡スマートコミュニティ推進機構)の「共助の出島」という考え方について意見が交わされました。
当日は会場に50人を超える参加者が集まり、オンラインでも200人を超える視聴がありました。

会場には自治体関係者や民間事業者、研究者など、さまざまな立場の人が集まっていて、これだけ多くの人が地域のこれからについて考えているんだな、ということがまず印象に残りました。
さて、今回の記事ではTSCについて考えていきたいのですが、その前に一つ。
そもそも「官民共創」って、何なのでしょうか。
まずは、そこから少し整理してみたいと思います。
そもそも「官民共創」って何?
TSCは、豊岡の官民共創組織です。
……と言われても、「官民共創って何?」という人も多いと思います。
似た言葉に「官民連携」があります。
ざっくり言えば、官民連携は、
行政と民間が、それぞれの役割を持ちながら協力すること。
一方、官民共創は、
「何をするのか」「どうしたら解決できるのか」というところから、一緒に考えていくこと。

もちろん、実際にはこの二つをきれいに線引きできるわけではありません。
ただ、TSCが大切にしているのは、行政側ですでに答えが決まっていて、「この仕事を民間にお願いする」という関係だけではありません。
地域で困っていることや、「もっとこうなったらいいのに」という思いに対して、自分たちだけではできないなら、できる人を探して、一緒に考える。
豊岡では、そうしたやり方で取り組みが積み重ねられてきました。
なぜ「共助の出島」が必要なのか
そんなTSCを特徴づける考え方の一つが、「共助の出島」です。
「出島」と聞くと、長崎の出島を思い浮かべる人も多いかもしれません。
江戸時代の出島は、日本と海外という異なる世界をつなぐ窓口の役割を担う場所でした。
TSCの「出島」も、それと少し似ています。
行政、金融機関、民間事業者、地域で活動する人など、普段はそれぞれ違う組織や立場にいる人たちをつなぐ場所。
それぞれが自分の所属を持ちながら、TSCという場所ではその壁を少し越えて、
「この地域の課題をどうしたら解決できるだろう?」
「誰と一緒ならできるだろう?」
「まず一度やってみようか」
と考えることができます。
TSCは、行政の外側にこうした共創の場をつくる「出島モデル」として整理されていて、その特徴には「自由でフラット」「言葉を翻訳する」「官と民の制約を越える」「やってみる」といった考え方が挙げられています。
ではなぜ、わざわざそんな場所が必要なのでしょうか。
行政には、公平性や説明責任があります。予算にも制度にもルールがあります。
一方、民間企業にも、利益を生みながら事業を続けていくという役割があります。
どちらも大切です。
でも、地域の課題は、必ずしも「これは市役所の仕事」「これは企業の仕事」ときれいに分けられるものばかりではありません。
「これ、そもそも誰の仕事なんだろう?」
「事業になるかどうかも分からないけれど、放っておいていいのかな?」
「この人とこの人が話したら、何かできるかもしれない」
そんな段階のことも、たくさんあります。
だからこそ、
「それは誰の仕事?」から始めるのではなく、「それ、どうしたらできるだろう?」から始められること。
僕は、そこが「共助の出島」の大きな特徴だと思っています。

TSCをつくり、動かしてきた3人の話
今回のセミナーでは、TSCの設立やこれまでの活動に関わってきた3人が、それぞれの立場から豊岡での取り組みについて話しました。

行政、地域金融機関、そして全国各地の地域づくりを支援する財団。
同じTSCに関わってきた3人でも、立っている場所はそれぞれ違います。
だからこそ、3人の話を聞いていくと、TSCという組織が少しずつ立体的に見えてきました。
豊岡の挑戦を語る、若森さん
最初に話したのは、豊岡市こども未来部長兼子育て専門官の若森洋崇さんです。

若森さんからは、コウノトリの野生復帰やジェンダーギャップの解消、演劇のまちづくりなど、豊岡がこれまで進めてきた特徴的な取組みを紹介されました。
豊岡は、人口減少や少子高齢化が進む人口約7万人の中規模な地方都市です。
一方で、
「なんで豊岡でそんなことやってるの?」
と思うような尖った挑戦も、結構あります。
そして印象に残ったのが、若森さん自身が、TSCができる以前から「自分は一人で出島をやっていた」と話をされたことでした。
必要なら組織の外に出る。
できる人を探す。
立場が違っても、一緒に動く。
TSCができる前から、組織の外に出て、人とつながりながら動いてきた若森さん。
今もなお現場で動き続ける若森さんならではの言葉だと思いました。
「今動かなければ間に合わない」宮垣さん
続いては、但馬信用金庫理事長の宮垣健生さんの講演です。

宮垣さんは、地域に根差した金融機関の立場から、人口減少が進む但馬地域の未来について強い危機感を語りました。
その説明に登場したのが、ジェットコースターです。
ジェットコースターは、最初はゆっくり坂を上ります。
頂上を越えて下り始めても、最初はまだゆっくり。
でも、あるところから一気に加速していきます。
宮垣さんの感覚では、今の但馬は、
「先頭車両が少し坂を下り始めたくらい」
なのだそうです。
まだ猛スピードではない。
でも、この先一気に加速してしまえば簡単には止められない。
だから、今のうちに動かなければならない。
人口減少の話は、数字だけだとなかなか実感しづらいのですが、この例えはとても分かりやすく感じました。
そして何より印象的だったのが、宮垣さんの熱量です。
「但馬信用金庫の理事長」と聞くと、なんというか、現場を離れて上の方から指揮を執っていそうなイメージもあります。
でも、話を聞いていると、ものすごくプレイヤーでもあるんです。
地域の未来を外から眺めているのではなく、自分自身も当事者として「今から何ができるか」を考えている人なんだと感じました。
宮垣さんの発表では、地域金融機関が単に地域のプロジェクトに「参加する側」ではなく、ときには自ら「仕掛ける側」に回ることや、担当者のモチベーションを使命感にまで高めていくことの大切さも語られていました。
全国を見てきた鈴木さんが感じる、豊岡の面白さ
最後は、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金(TMF)のプログラム・ディレクター、鈴木雅穂さんです。

TMFは、もともと地域の移動課題への支援から活動を広げ、移動だけではなく、地域の暮らしやまちづくりそのものを支援する取組みを進めています。
豊岡では2020年からTSCの立ち上げに関わり、資金を提供するだけでなく、地域に入り、一緒に活動しながらTSCのプロジェクトや事務局を支えてきました。 現在は、地域主体への移行や、そこで得られた知見の整理・言語化も進めています。
鈴木さんの話を聞きながら感じたのは、
『豊岡の中にいると当たり前になっていることも、外から見ると結構面白いんだな』
ということでした。
コウノトリがいて、演劇祭があって、移動の課題への挑戦があって、TSCがある。
そして、この地域を何とかしたいと思って動く人がいる。
全国規模で様々な地域に関わってきた人の視点を通すことで、豊岡という地域が少し違って見えました。
仕組みより先に、人がいた
3人の話を聞きながら、「僕が」改めて感じたことがあります。
それは、TSCという仕組みを作った=官民共創が始まったわけではない、ということです。
若森さんや宮垣さんは、TSCができる前から「自身で出島をやっていた」と話していました。
自分たちだけではできないことがあれば、組織の外に出て、できる人を探して、一緒に動く。
地域の課題を自分ごととして捉え、立場を越えて動く。
つまり、仕組みより先に 「この地域のために何かしたい」と動いていた人たちがいた。
そして、そういう人たちが組織の壁を越えて動きやすくする場所として、TSCという環境を作った。
だから、TSCを組織図や仕組みだけで説明しようとすると、少し足りないのかもしれません。
どんな人がいて、どんな思いで動き、誰と誰がつながってきたのか。
そういう部分まで見ていくことで、TSCという場所が見えてくるような気がします。

TSCが生み出している価値
このセミナーを通して改めて確認できたことがありました。
僕は普段、TSCの現場で、豊岡市役所や但馬信用金庫の人たちと日々意見を交わしながら、複数のプロジェクトに関わっています。
その中で以前から感じていたのが、
TSCが生み出している成果は、目に見える事業だけではない
ということでした。
立場の違う人たちが、普段から相談できる。
率直に意見を言える。
「じゃあ、次はこれをやってみよう」と一緒に動ける。
そんな関係があるから、一つのプロジェクトが進みやすくなるだけではなく、そこから別の挑戦にもつながっていきます。
TSCでは、「みんな×エール」や「Toyooka iDO」、「福祉モビリティ」など、複数のプロジェクトが動いています。
もちろん、それぞれの事業そのものも大切です。
でも僕は、組織の壁を越えて生まれた関係性そのものも、TSCが生み出してきた大きな価値の一つなんじゃないかと思っています。
今回、若森さんや宮垣さんの話を聞きながら、
「自分が普段TSCの中で感じていたことと繋がっている」
と改めて感じました。
若森さんや宮垣さんたちが、組織を越えて動きながらつくってきた環境の中で、次世代として、今また僕たちの間にも組織を越えた関係が生まれている。
そして、その関係から、また次の挑戦が生まれる。
TSCは、プロジェクトを生み出す場所であると同時に、次の挑戦を生み出すための関係を育てる場所でもある。
僕はそんなふうに思っています。
「横展開」は、TSCをコピーすることじゃない
今回のセミナーでは、豊岡で得られた知見を、ほかの地域へどう展開していくのかという話もテーマになっていました。
正直、僕は最初、
「こんなの、そのまま横展開できるのかな?」
と思っていました。
地域によって、そこにいる人も違えば、文化も、人間関係も違います。
組織図やマニュアルだけ渡されても、同じものはできないと思うからです。
でも、今回のようにTSCの取り組みを研究して、
「どんな人が動いてきたのか」 「どんな関係が生まれたのか」 「何が挑戦を後押ししてきたのか」
といったことを整理していくことには、意味があるんじゃないかと思うようになりました。
それは、「この通りにやればTSCがつくれます」というマニュアルを渡すことではなく、
「自分たちの地域でも何か始められるかもしれない」と思っている人の背中を少し押すためのヒントを渡すこと
なのかもしれないと思ったんです。
もちろん、実際にやってみたら思ったように進まないこともあると思います。
でも、そうやって試しながら、その地域なりの経験値を積んでいく。
その経験があるからこそ、「次はこうしてみよう」と、その先の展開も考えられるようになるのかもしれません。
名刺交換にできた長い列
セミナーが終わったあと、司会の関先生から、
「ぜひ登壇者のみなさんと名刺交換をしてください」
という案内がありました。
すると、若森さん、宮垣さん、鈴木さんの前には、それぞれ長い列ができました。
自治体で働く人、行政と一緒に地域づくりに取り組む民間の人、研究をしている人。
きっと、それぞれが自分たちの地域での取組みにつながる何かを探して、話を聞きに行っていたのだと思います。
その光景を見ながら、全国にも同じように、「自分たちの地域で何かできないだろうか」と考えている人がたくさんいるんだなと感じました。
時代が変われば、地域を取り巻く環境も変わっていって、これまで必要とされていたものが変わったり、これまではなかった新しい課題が出てきたりする。
そうした変化に対応していくためには、これまでと同じやり方を続けるだけではなく、自分たち自身が変わっていかなければならない。
そんな中で、実際に自分たちの地域で何かを変えようとしている人がこれだけたくさんいることに僕はとても刺激を受けました。
そして同時に、豊岡ではすでに、行政や金融機関、民間などが立場を越えてつながりながら、地域の変化に向き合おうとする取組みが始まっているということを改めて嬉しく感じました。

今回のセミナーを通して、僕自身もあらためてTSCについて考えることができました。
TSCの今の形が完成形だとは思っていません。 地域の状況や、そこに関わる人が変われば、それに合わせてTSCの形も変わっていくんだと思います。
僕自身も日々現場でいろいろな人と相談しながら、やってみて、考えて、また次の一歩を考える、ということを繰り返しています。
今回のセミナーを通して改めて感じたのは、TSCには、組織や立場を越えて人がつながり、一緒に考え、挑戦できる環境があるということでした。
これからも、いろいろな人と話しながら、豊岡にある課題に向き合っていく。
その中から、また新しい取組みや、新しい関係が生まれていったらいいなと思っています。



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